2017年にオープンした栃木県の農業を応援するサイト『カジル』は、この8月で3周年を迎えました。このサイトは「栃木県の農業をもっと良くしたい」という二人のエンジニア達の想いから始まったことをご存知でしょうか。
運営するのは、宇都宮のWEB制作会社CREBAR FRAVOR.(クレバーフレーバー)の小林さん(以下 コバタク)と黒須さん(以下 くろしー)です。普段は表に出ないお二人ですが、今回は特別にインタビュー対談に登場。サイト発足のきっかけからこれからの展望について、たっぷりお話しいただきました。聞き手は今回からカジルに仲間入りした私、ライターの小百合が担当します。

「カジル」を運営する「クレフレ」とは
:コバタクさん、くろしーさん、こんにちは!カジルに仲間入りした小百合です。これからよろしくお願いします!
、
:よろしくお願いしま~す!
:日頃カジルのサイトは良く見ているのですが、詳しくは知らなくて。今日はお二人のことやカジルのこと、根掘り葉掘り聞いてもいいですか?
:お手柔らかに頼みますよ~(笑)
:ふふふふふ。
:ではまずはじめに、お二人が所属するクレバーフレーバーについて教えてください
:宇都宮市にあるWEB制作会社です。気軽に「クレフレ」って呼んでください。2016年11月に創業して、くろしーと私ともう一人の三人で共同経営しています。事業の柱はホームページ制作で、クライアント様は栃木県・東京都・大阪府の企業が中心です。営業・デザイナー・エンジニアの各部門で10年以上のキャリアを有するメンバーで構成されています。
(コバタクって呼んでね♪)
:ほうほう。もともとお二人はどういう関係だったんですか?
:以前会社員だった時に、たまたま同じオフィスに居たんです。他部署だったので、同僚ではなかったんですけど…。
:コバタクがちょっかい出してきて(笑)そこから知り合いになったんだよね。
:うん。その後お互い会社を離れたんですけど、半年に1回くらいご飯に行って近況を報告し合う仲で。
:ある日、私が「独立したい」ということで、コバタクを呼び出して二人で焼き鳥屋に行ったんです。
:くろしーはお酒飲めないんだけどね(笑)。それで「じゃあ一緒に会社やっちゃう?」という話になって、我々にできるのはWEBサービスだ!となりました。でもWEBサービスをやるためには、我々の他にデザイナーが必要だよねってことで…。
:私の元同僚のデザイナーを誘ったんです。それでその三人でスタートして今に至ります。
:なるほど。クレフレでのお二人の業務は?
:私は主に労務や財務などの経営業務と、営業ですね。
:私はエンジニアで、WEBサイトの骨格を作っています。
(くろしーって呼んでね♪)
カジルの誕生秘話
:お二人のことが少し分かってきました!カジルサイト運営の業務分担はどうなっているんですか?
:サイトの制作をしてるのは私で、コンテンツや企画の立案は二人でやっています。
:農家さんへの取材と記事の制作は私が担当しています。
:ふむふむ。そもそも、カジル発足のきっかけって何だったんですか?
:クレフレの立ち上げが落ち着いた頃、くろしーと私で「何かしたいね」と話していました。色々検討していくうちに、クレフレのメンバーは三人とも兼業農家で育ったという共通点に気付いて。それで“農業”をテーマにしようとなって、今までにないような形で農業を発信していきたいねと。
:農家さんって、あまりホームページとかやってないのですが、発信しないのは勿体ない。それらの情報はひとつひとつの点だと小さいけれど、まとめれば面となって大きな価値になるのではないかと考えたんです。
:サイトのコンセプトを考えている最中、たまたまデスクの上にみかんがあって。それをカジってみたら「え、それいいじゃん!」となって…。
:…それで「カ・ジ・ル」になったと?
:はい。食べ物って結局“食べる=カジル”なので…。
:わざわざ色々語る必要はなくて、つくり手本人が自分の農作物をカジっている画さえあれば、安全性や美味しさを一枚で伝えることが出来る!と思ったんですよ。
:そうそう。あとはもう勢いのまま立ち上げた感じだよね(笑)
:このカジルが立ち上がることで、何かが起こればいいなと。とにかく「我々のバックボーンである農家を応援したい!」その想いだけで発動しましたね。
:なるほど。お二人が農家を応援したいと思うに至った、原体験ってあるんですか?
:ありますね。私の祖母がネギを作っていたのですが、なかなか良い売値が付かない様子を見ていました。いつも手はあかぎれだらけで、こんなに頑張っているのにこれしか値段がつかないんだ、努力に対しての対価がそれだけなんだと…。子供ながらに思いました。そういった体験が、時間を超えてカジルの立ち上げに繋がったのかもしれません。
カジル運営の陰にあった苦労
:「さあ、いよいよカジル立ち上げ!」となった当時、苦労はありましたか?
:掲載農家が全然決まりませんでした…。私たちは農業関連のパイプがあるわけじゃないので、いくつかの農家に飛び込みで取材交渉したんです。結果は惨敗でした…。
:めちゃくちゃ怪しいもんね。
:うん。掲載費がかからないという点が逆に怪しかったみたいで。実は過去に悪質な業者がいて、無料で掲載しますという謳い文句で結局なにかモノを購入させられたり、実際は有料であったりと、痛い目にあった農家さんが居たらしくて…。
:…それは辛いね…。
:あと私、カメラの使い方が全然わからなくて…。ボケボケの写真ばかりとっていました(笑)
:私が教えたりしてたよね。
:そうだった(笑)。日頃写真を撮られることに慣れていない農家さんから、いかに自然な表情を引き出すか、これがまあ~難しかったです!まるで七五三のカメラマンになったようなつもりで農家さんに話しかけながら、徐々に腕を上げて行きました。
:お互い初めての経験ですものね…。最初は取材に結構な時間がかかったんじゃないですか?
:いえいえ。今もそうですが、農家さんは皆さんお忙しいので平均20分くらいです。品目・想い・その他の情報をババっとヒアリングして、パッと撮影して撤収します。あ、5分でやったところもあったなぁ~。
:5分はすごいね。そもそもカジルは“農家さんのホームページの集合体”をイメージしているので、ひとつの農家さんのコマだけで小さいホームページができるくらいの情報量があればいいんだよね。
:ほほう。だんだんと掲載農家さんが増える中で、何か問題などはありましたか?
:最初は農家さんの住所と電話番号を掲載していたんですが、それを見た色々な企業から農家さんに連絡が行っちゃって。農地利用や商品販売の営業とか…。それって農家さんにとってプラスではないので、問合せはカジルを経由する仕組みに変えました。
:そんなことあったね。でも、良いことも沢山あったんですよ。
:そうそう。カジルを見たという個人さん、ホテルやレストランから連絡があって、農家さんにとって沢山の新規客が開拓されたんですよ!農家さん同士、横のつながりも出来たみたいですし。
:カジルはネット検索に強いんです(ドヤ顔)!ネットでの検索で引っ掛かりやすいように、SEO対策は万全なんです。
:さすがくろしー。そこはカジルの強みだよね~!
:現在カジルは130もの農家さんを掲載していますが、掲載農家さんをどのように探されるのですか?
:基本は全部、農家さんからの紹介です。紹介を受けて電話で取材のアポを取りますが、今ではカジルは農家さんの間で認知されているので、立ち上げ当初のように色々説明しなくてもすんなり理解してもらえるようになりました。「ああ、あのカジルさんね!」と。よほどの繁忙期でない限り、取材は受けてもらえます。今は、取材に行っても皆さんウェルカムで迎えてくれます。コミュニケーションもスムーズにできるようになってきました。農機の話で盛り上がったり。農家さんとの接点を見つけて心の扉を開いて、たくさんの言葉を引き出すようにしています。
:コバタクは取材後の記事の制作と掲載も早いよね。
:うん、取材から3~4日でカジルに掲載しています。くろしーが使いやすい仕組みを構築してくれてるので、スイスイ掲載できるんですよ。カジルに記事をアップしたら、取材を受けてくださった農家さん、繋いでくださった農家さんに連絡します。そうすると農家さんもSNSで拡散してくれるんです。
:スピード感ありますね!農家さんに記事の感想を聞いたりしますか?
:うーん、直接聞くことはありません。でも、例えば次の農家さんを紹介してくれたら、それが感想に値するのかなと。記事に満足してもらえたから次の農家さんを紹介してくれたのかなって思っています。
:うんうん、それは言えてるね。
:なるほど~。数ある中でも印象的だった取材はありますか?
:皆さん各々特徴的なので、一番は決められないです!ああ、でも、一件忘れられないことがあります…。ありがたいことに、取材のたびに何かとお土産をいただくんですが、マムシを頂いたことがあって…。
:マママ、マムシですか!?
:帰りの運転中に逃げ出したら大惨事だということで、実際は丁重にお断りさせていただいたんですけどね…。
カジルのこれから
:これからカジルのサイトはどんな方向に向かっていきますか?
:今まで以上に栃木の野菜と農家さんの魅力を伝える内容にしていきます。あと単純に、サイトを見て「この農家さんの野菜食べたい」と思ってもらえるような内容にしたいです。
:まずは記事の質を上げて、より多くの人に色んな方向からカジルの記事を見つけてもらう。そこからカジルの存在や、栃木の農家のことを知ってもらえればと思っています。ただ単に広告を沢山入れてサイトを目立たせたり、一発バズらせる!みたいなことは望んでいません。カジルの記事を読んだ人が、抱えている問題を解決できたり、もっと他の記事も読みたいと思ってもらえるような、中身のある記事を増やしていきたいですね。
:あと“カジリスト”という名前をブランディングしたいです。私たちはカジルに掲載している農家さんたちのことを“カジリスト”と呼んでいるのですが、その名前をもっと有名にしてブランド化していきたいなと。
【カジリストたち】
:サイト以外に、カジルとしての活動はどうしていきますか?
:カジルネットワークをもっと広げて、つなげて、深めていきたいです。例えば、農家さんから「カジルが主体となって農家同士の交流会を開いて欲しい」という声を沢山いただいているんです。自分とは違う作物をつくっている農家さんと関係性をつくりたいんですよね。
:栃木に数万件いる農家さんの中でも、カジルに掲載している農家さんは選りすぐり。技術も志も最高な方々ばかりなんです!きちんとした農家さん同士で情報交換したいという想いは当然ですよね。
:それは是非やりたいよね。あと私は、カジルネットワークを使って農業にまつわる問題の解決に取り組んでいけたらと思っています。人手不足、後継者問題、遊休地(※現在使われていない農地のこと)をどうするかなど、問題が山積みなので。
:そうだね。そうだ、2022年に栃木で国体があるんですよ。せっかく全国から人が集まるので、そこで栃木の農業をPRする企画をやりたいんです!
:すごい!目標がたくさんありすぎて、めちゃくちゃ楽しいですね!
:はい、やるべきことはたくさんありますね。でも、こうしてお話する中で思い出したのですが、私たちが先に見据えているゴールは“農作物の適正価格を実現すること”なんです。そのために、農産物の売買の形を新しく創りたい。JAさんは“安定”を、直売場さんは“新鮮”を提供している。じゃあ、カジルは何を提供できるか?ってところなんです。
:カジルは『楽しい』を売るんでしょ。
:そうそう!それね。
:それ前から言ってたよね?なんで今さら出し惜しみしたの?(笑)
カジルを誰もが知っている農業応援サイトに
:色々話したけど、結局のところはまず農家応援サイトで日本一になりたいってところかな。
:うん。カジルのことって、普段生活する中でなかなか耳にしないですもんね。なので、目先の目標としては、皆さんが普通に生活していて耳に入るくらいカジルの認知度を上げていきたいと思います!う~ん…タピオカくらい有名になればいいかな?
:それ、結構有名じゃない!?(笑)
対談を終えて
カジルの運営をしているコバタクさんとくろしーさんに、沢山の目標をお話しいただきました。いかがでしたか?栃木の農業への愛に溢れているお二人の言葉は、全て「栃木の農業を盛り上げる、農家さんのお困りごとを解決する」という目標に繋がっていました。
タピオカくらい有名になる(予定の)カジル、これからも応援よろしくお願いします!
プロフィール
コバタク
株式会社クレバーフレーバー代表取締役。
1985年生まれ。栃木県宇都宮市出身、宇都宮市在住。
実家は兼業農家で米と野菜を育てている。
好きな農作物はアメリカンチェリー。
くろしー
株式会社クレバーフレーバー代表取締役CTO。
1982年生まれ。栃木県芳賀町市出身、宇都宮市在住。
趣味はキャンプグッズ集め(集めているだけでまだ使ったことはない)。
好きな野菜はトウガラシ、ネギ。
INTERVIEW & TEXT
小百合
「住食人」がテーマのフリーライター。埼玉県さいたま市出身。埼玉県久喜市在住。
以前栃木県に住んでいたことがあり、今でも頻繁に足を運ぶほど栃木愛が強い。
2019年7月からカジルに参加。
趣味はヨガ、ダイエット(コミット中)、料理(と言いたい)、お酒。
好きな野菜はシシトウ、ミョウガ。